【新歓ブログ6】 ディベートを通してオタクになる

こんばんは、ブログ担です。ブログリレーもついにラスト、最後は京大文学部4回生?5回生?の増部光晟さんに書いてもらいました!ますべさんはめちゃめちゃディベートオタクで、とっても面倒見がいいみんな大好きな先輩です。

 


 

京大文学部アメリカ文学専修の増部光晟です。純ジャパでディベートは高校から始めました。魂がディベートに囚われてしまったので運営とディベーターとジャッジを気の向くままに続けています。最近の悩みは一向にディベートを辞められず、元ディベーターの親友に「まだディベート続けてんの⁉」と言われていることです。早く魂が自由になりたい。

ますべさん可愛いね!

1.

森見登美彦夜は短し歩けよ乙女』に「詭弁論部」という架空のサークルが登場するのをご存じだろうか。恋破れた詭弁論部の男が結婚式の二次会の会場において、まさに挙式を済ませた新婦に向かって「自分の恋している者よりも恋していない者にこそ身を任せるべき」という論題で最後の悪あがきの弁論を行う。読者はもちろん常識に照らして恋している者と結婚する方がいいに決まっていると思っているし(私もそう思う)、恋破れた男が酒を飲んで荒唐無稽な弁論を展開するのはいかにも惨めで滑稽なシーンだと思うことだろう。二次会会場に勝手に侵入してタダ酒を飲んでいた黒髪の乙女も、長居することなくすぐに次のタダ酒を求めて徘徊に戻ってゆく。

 

しかし、この反対弁論が存在するのを知っている人はそれほど多くない。実のところ、詭弁論部の男が展開する弁論はプラトンパイドロス』のオマージュ(というかそのまんまパクり)であり、リュシアスという弁論家が語ったとされる内容を若者パイドロスソクラテスに説明する内容に一致する。

 

パイドロス
ええ、それがまた、ソクラテス、あなたに聞かせてあげるにもってこいのことなのです。なぜかと言いますと、私たちのとり上げていた話というのは、――一種独特の仕方でなのですが――恋(エロース)に関係のあるものだからです。というのは、いいですか――リュシアスはひとりの美少年が口説かれる次第を話に書きました。ところが口説かれるといっても、口説くほうの男はその少年を恋しているわけではないのでして、そこのところがまさに、工夫をこらした月並みではない点なのです。つまり、自分を恋している者よりも恋していない者にこそむしろ身をまかせるべきである、というのが、彼のその話の論旨なのですから。(プラトンパイドロス』227C 藤沢令夫訳、岩波文庫 1967)


この弁論を聞いたソクラテスの行う反対弁論は、いささか長いので省略するが、ムーサの詩想、デルフォイの神々、名前制定者など叙事詩的かつ神話的な世界観を多用してパイドロスを説得しようとするものだ。飲んだくれた恋破れ男の荒唐無稽な弁論と比較しても圧倒的な荒唐無稽さだ。もしも森見の小説にソクラテスが乱入してきたら(京都の飲み屋にはそういう妖精が棲息しているので、あり得ない話ではない)、現代の読者は恋する者と結婚すべきなんてもはや思ってられなくなってしまう。

 

古来より哲学者たちはソフィストを、真理ではなくもっともらしい言明によって魂を誘惑するとして排撃した。しかし現代では、内在的な真理については無限退行であるなどの疑問が呈されて、例えば信頼性主義(reliabilism)といった、客観的に存在する正当化プロセスへの信頼性やその認識条件を問う外在主義的な認識論も提出されている中で、比較されえない絶対的な真実が存在することに根差した弁論術批判はもはや効力を失いつつある。

 

2.

さて、ものごとの始原について書いたからには、結末にも触れねばなるまい。すなわち、現代のディベートについて。(ディベートはイギリスの大学の中で発達して演劇などと密接な関りがあるのですが、うじゃうじゃ書いてても誰も興味ないから過程はすっとばします)

 

はい、2023年にやってきました。イエーイ!オタクくん元気~?誰もプラトンなんて興味ないし知らないけどディベートは元気でーす!!オタクくんのために最近のカッコいいディベート音源を紹介していくぜ~!

 

1. EUDC 2022 GF 

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これは全員カッコいいお祭り音源だ!宇宙に惑星系外生命体が存在することを望むっていうわけのわからない論題で4者4様のことを言っててマジでおもろいぞ!俺がディベートしている間に友人は実際に人工衛星を宇宙に飛ばして新しい衛星の製作と概念設計に関わっていたのが最近割とショックだったな!

 

2. Doxbridge Worlds 2021 GF PM Taha

youtu.be


2024はアメリカの大統領選挙だけど、ついにトランプが(わりとしょーもない罪状で)刑事訴追されたな!これはトランプの刑事訴追に賛成する立場のTahaがMAGAキャップを被ってスピーチしてる最高にクールな音源なんだ!ディベートを始めると現代政治にも興味関心が持てるぞ!

 

3. EUDC 2022 QF GW Ahmed El Sammak

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1971年にアレクシスとモニックの悲劇がガリマール社から出版され、あらゆる形態における官能の自由の問題は大部分表現の自由の問題であり、その周りをとりまく沈黙の広さをユルスナールが指摘した(先にフーコーが指摘してたかも!)と思うけど、最近は大っぴらにポルノについて語れるようになったんだ!ただしHelena Ivanovがディベート界で人工妊娠中絶について語れないことについて、世界中の女性にとって現在進行形で問題であるのに語れないのはコミュニティとしてinclusivityをはき違えている!って言ってるのも注記しておくぜ!


オタクくんもディベートを始めてカッコいいスピーチを自分で構成できるようになろう!

 


 

新入生向けブログリレーの最後にとんでもない記事が投下されましたがいかがでしたか?

何人かの方が書いてくださりましたが、関西ディベートコミュニティの魅力は面白い人が多いところにあるのですが、ますべさんは間違いなくおもろい人 of おもろい人です。京大ディベセクの練習にも出没してくださるらしいので、是非お話してみましょう。

 

新歓ブログリレーはこれで終了ですが、京大ディベセクの新入生向け練習はまだまだ行っています。興味のある方はツイッター、もしくはインスタグラムのDMまでご連絡ください!

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